このお話はあんまりフィクションじゃないです。
登場する人名は現実の人名とは変えてあります。 人の心は移ろいやすい 日々に永遠は無い 日々には変化がある どんなに同じ日々を送ろうとしても そこには微弱な変化が生じる 永遠などはこの世には無いのだ、 そう、インターネットにも。 ある時、一匹のウサギは1つの部屋の常連であった。 「おすおす、ユウすけ、今日もはじめるとするか」 入室一番に定型な挨拶を交わし作業体制をとる。 「ピアさん!今日もきてくれたんかー」 部屋の主の名はユウ。 ショタ声を売りにしてる女子高生で、 本人は頑なに男性と言い張ってライブ部屋を回している。 だが、声はどう聞いても女の子でしかない。 1つ前のエピソードのほも先生もだが、 コエブにいる中学生高校生はこの手の"男子になりすましたいガール" が散見される。明らかに4~5年後には消し去りたい記憶に なるであろう愚かしく痛ましい行為だが、こういう思春期ならではの アレな活動を見学するのも若者の生態研究の一環ともなる。 よってこれらの愚行を否定するどころかあえて背中を押して もっとイタタな事に足を突っ込ませるぐらいの研究熱心さを ウサギは持ち合わせていた。 いつもなら、もっとやれもっとやれ、イケメンきたあああ など、 より一層調子付くようオタ芸ばりの外野コールを送るのだが、 ユウの場合いささか事情が異なった・・・・・・。 「今日は跳箱を元気よく飛んでる構図にするか、性別は問わない やりたいほうでやれ、よし、早速はじめろユウすけ」 「はぁ~い、用意しますわー」 ウサギが指示を出すと、ガサゴソとマイクがユウの動作音を拾う。 しばらくすると鼻歌交じりでユウは作業を始める。 「ユウすけ、おまえさんまだ男の振りなんぞして、くだらん悦に 浸っては毒にも薬にもならん雑談なんぞしるんけ」 「ピアさん、他ではあんなに盛り上げ役に徹するくせに、ボクには 容赦無いんやねー」 「こう見えてピアさんショタ声にはうるさいのよ? 線の細い女の子みたいな男の子がショタだと思ってるなら、 そいつは大きな間違いよ、ショタってのは無邪気で奔放で、 小汚く落ち着きが無く、すぐむきになる、それでいてまっすぐな目をして、 ありとあらゆるものに無限の興味を示す、そういうものをショタと いうのよ、そう、そういうものを少年というのよ・・・」 「はぁ、それじゃボクのショタ声はダメなんか~?」 「だめだだめだ、ユウすけのショタ声なんぞ、そこらの中学生でも できる、ただの"アタシの思う男の子のマネ声"でしかない、 ショタを名乗るには綺麗過ぎる、かわい過ぎる、それじゃあただの 声色を低くしただけの女の子でしかない」 「えええー ショタってそんなに深いもんなんー?」 「ユウすけよ、ショタは中途半端に手を出すと火傷どころでは 済まなくなるぞ・・・・・・ショタをやるにはおまえさんじゃ闇が足りない、 そう、ピアさんのような深い深い闇が、だ」 「なんよそれー」 「そんなことより、描けたんけ?」 「いや、まだやけど」 「ユウすけ、おまえさんの声真似なんぞそこらのアホウどもの 馴れ合いの前ですら埋もれる程度のものだ、だが、おまえの絵は 違う、おまえさんの絵だけはたいしたもんだ、線画に於いては 恐らくコエブ内では三指に入るだろう」 「着色込みではまだまだ、十指にも入らないが、ポーズセンスだけは 他を凌駕するズバ抜けた才覚を持っている、ピクシブの作品群は たいしたものだった」 「一枚絵では他には及ばないが、恐らく漫画を描きはじめれば他を 圧倒するだろう、それにはまず、手が早くなることだ、もっと描いて 描いて描きまくって描き慣れろ、即イメージして即手を動かせ!」 「ピアさん 持ち上げすぎやー ボク絵は好きやけどピクシブで 2~300点とかもらうのが限界やて」 「ユウすけ、世に出ろ」 「自らが作品で世界を展開し、生の人間に揉まれて来い ネットは広大なんてのは妄想だ、引き篭もりの逃げ口上だ、 根拠の無い自信で本当はたいしたことの無い人間が陥りやすい 幻想でしかない、おまえさんは現実でもやれる、その気になれば売れる ものが描ける」 「引き篭もりって、痛いところ突くなあ~」 「たまには学校いかんと駄目やぞーう ユウすけー」 ユウは登校拒否児だった。 ウサギはこの登校拒否児と2~3日に一度ライブ部屋で会い、 ひたすらお題のお絵描きに没頭していた。 構図を指定し、ユウが描く、 即興で考えた設定を挙げ、ユウが描く、 シチュエーションを指定し、ユウが描く、 ユウが描き、ウサギが塗る、 ユウが描き、ウサギが別案を示すために描く、 ユウが描き、ウサギが画像合成をする。 ユウが描き、ウサギが無駄にドット化する。 ウサギにとってはコエブでもっとも楽しき日々であった。 だが、長く続くと思われた日々もあの男が現れてから変わって行った。 「お邪魔するぜーーー!!!部屋主イイ声じゃねえかー俺の嫁になれっ!!」 突如として、ハイテンションな男が入室してきた。 「えええー ボク男ですよ~」 まだありふれた男の子設定にこだわりを持つユウ。 「ハハハー わしは騙されんぞー どう聞いても女子の声じゃーー!!」 「あの、お名前はなんてお呼びしたらいいんですか」 「フフフ、これはカラスと読む」 この男、楽良須と書いてカラス。 この後数日に渡って通い詰めユウの部屋の常連となった。 そしてある日、ひょんなことからカラスが台湾人であることが明かされる。 言われるまでまったく分からないほど、カラスの日本語文章は完璧であった。 こういったコミニュティにおける日本語が上手い外国人の大半は アニメ好きであるが、カラスもまた例に漏れず日本のアニメが好きな外国人 であった。台湾人と判明してからカラスはウサギの興味を引き、 カラスが加わったことにより部屋の内容は雑談に傾いた。 「ユウはわしの嫁だからな、無論良妻賢母、頭脳明晰な嫁に違いあるまい」 この男の"俺の嫁"のノリもはじめはアレな感じだったが、 次第にユウもウサギも慣れたのか、それが日常風景のようになっていった。 「カラス殿、ユウすけは希に見る天才、7歩あるくうちに詩を1つ完成 させることも容易ですぞ」 ウサギは一見口からでまかせのような言でカラスに絡んでいく。 だが、これは緻密な"品定め"であった。 「いやいやいや、無理やから」 ユウは真に受け謙遜。 だが、カラスはその意図を看破したのか、勢いを殺し辛辣な口調となる。 「なるほど、曹殖か」 「ええ、やはり三国志の故事をご存知でしたか」 「知らないわけが無い、特にその逸話はな」 「曹殖 七歩詩、豆の歌だな」 「ええ、そうです」 「兄弟に7歩あるくうちに詩を詠わねば処刑すると宣告され、 曹殖は見事に詩を1つ詠う、それが豆の詩だな」 「豆は植えて育てばみるみるうちに伸び枝が分かれる、 だが、その多く分かれた枝も、元は1つ」 「曹操の子らも元々は1つ兄弟は1つであったのに、今は喧嘩どころか 殺し合いをしている、曹殖は昔のように兄弟仲むつまじくありたい という気持ちを豆に例えた名詩だ」 「お詳しいですねカラス殿」 「枝分かれの兄弟、それは我々台湾人も同じなのだよ」 「元は一つ、我々とて中国から枝分かれして今があることを 充分分かっているのだ」 「台湾の歴史の授業は古代中国の王朝からはじまる、 中国から抜け出た枝が我々だ、時には枝元と敵対し外敵と手を結び、 時には枝元に尻尾を振り、外敵からの難を逃れようとした、 我々は時勢ごとにあちらに付きこちらに付きを繰り返してきた、 皆が皆、何をやってるんだろう自分達はと疑問を持っている、 豆の詩のように、枝分かれた我々は何をしているんだろうと・・・・・・」 カラスの語りに部屋は静まり返った。 この一件から、ウサギはカラスにより一層の興味を抱いた。 そしてあくる日 「カラス殿、もしやこのような詩をご存知かな」 ウサギはカラスが入室してくると気鋭を制して問いかけた。 「問世間 情是何物」 ウサギが漢文を唐突に投げかけると 「直叫生死相許」 カラスはすかさず続きの漢文を返す。 「ははは、カラス大侠、あなたのような人物とこのような場で お会いできるとは思いませんでした、どうかこの若輩者に叡智を」 「ふふふ はははっ 日本人からそれを聞くのははじめてだ 兄弟、困ったことがあればいつでも聞くがいい」 「では早速お言葉に甘えて」 「最近、中文のカードゲームを購入しましてな、どうしても・・・ 翻訳できぬ部分やニュアンスがわからぬ部分がありまして」 「いいだろう、画像でよこせばわしが日本語に書き換えてやろう」 「かたじけない、カラス大侠」 この後、ウサギとカラスは意気投合し、 ウサギは日本の女性声優(特に花澤香菜)の情報を提供し、 カラスは台湾で流行った国民的武侠人形劇の話を教え、 互いに知識を高めあった。 それはまさしくコエブにおいて最も楽しき日々であった。 もはやユウのことなど忘れ、連日二人は多くを語り合った。 だがある日、カラスは交通事故で入院してしまう。 事故後病院よりアクセスで報告を受けるが、その後、カラスは コエブに姿を見せなくなった。 ウサギはユウのことはわりかしド忘れするが、カラスのことは ずっと覚えていることだろう。 つづくっ
by souka_t
| 2014-11-12 19:40
| 長期レポ
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