第78回芥川賞受賞作品。
昭和中期ぐらいの富山を舞台とした話。
中学生の思春期が甘酸っぱく、
それでいて途方も無くノスタルジック。
登場人物が使う富山弁が更なるアクセントを加え、
北陸の実際を知らぬ自分でも北陸人の
純朴さに幻想を抱くくらい心地よいものだった。
主人公の少年はいささか物分りが良すぎる感があるが、
それを差し引いても、本作は見事な少年を書き切ったと言える。
父と子のやりとり、母と子のやりとり、
親戚と子のやりとり、父の前妻と子のやりとり、
親友とのやりとり、初恋相手とのやりとり、
どれも見事な少年だった。
詰まるところ、文学作品とはいかに少年を書けるか
に集約されると自分は思うのだが、本作はその私基準を
満たすに充分であった。なかなか良い作品だと思う。
また、本作では頻繁にホタルの話があがり、
ラストではホタルの群れが大団円を演出するのだが、
自分の家の近くにもホタルの名所があるので
非常に身近なものに感じた。
自然界で発光する生き物というだけで
なんともファンタジックな虫である。