第110回芥川賞受賞作品。
趣味人の最高の夢と最悪の悪夢、
まさに光と闇が書かれていた。
一つの趣味が高じて、それが生き甲斐になって、
順当に妻子を持ち、小学校に上がる頃の息子が
その趣味に興味を持ち、日々没頭などしはじめたら、
それがどのような趣味であれ、いかほどの喜びとなろうか。
本編中にはそうした趣味人の最高とも言えるひと時が
書かれている。
同時に、高じた趣味が原因で家族が崩壊し、
息子が犯罪者になってしまったら、いかほどの絶望となるか。
そういった最悪のケースも書かれ、見事な二面性を表現している。
何かに打ち込んだ事のある者が読めば、少なからずの衝撃を受ける
事だろう。個人的には納得の芥川賞だった。
また本作では、戦時から戦後への移り変わりも見事に舞台背景として
消化し、書ききっている。主人公が戦時の体験を経てじわじわと
採石の趣味へ没頭していく過程が丁寧かつデジャブを交えた
ミステリアスに表現され、読み進めるのにも先が気になる
引きの要素として機能している。このあたりも見事と言わざるを得ない。
難解なのは終盤のハイライトだ。
人生を掛けてきた石の趣味を、息子に全否定される衝撃的な場面があって、
そこで主人公は言われるがままでグウの根も出ない有様になる。
このシーンを何故入れたんだろうか。
最後の後日談は、その全否定を更に覆すものとすべきだったのでは
ないだろうか。 それ故にこの作品のテーマは理解しかねるものがある。
しかし、全編に渡り読みやすく引き込むだけの魅力に溢れた作品なのは確かだ。
いきなり芥川賞110回まで飛んでみたが、平成の作品ともなると大分
緩やかな文面となっていた印象。やはり時代と共にスタンダードは変わってくる。