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大江健三郎 【死者の奢り】
大江健三郎最初期の短編。
主人公が医学部の水槽に入った死体を新しい水槽に移すバイトをする話。


昔、自分が高校生の頃に聞いたかな。
実際はもっと大昔からなんだろうけど、
都市伝説に"死体洗いのバイト"ってあって、
1体洗うごとに1~2万の報酬が出るが、付いた死臭はなかなか取れない
といった感じに口伝で広まってた。
何が始末が悪いかって、自分の時はその話を担任の教師から
給食中だかホームルームの時間中だかに聞かせられたことだ。
今思えば、小洒落た怪談話の他の何物でもないんだが、
部位ごとにホルマリン漬けにして保管してあるとか、
興味本位に頭だけ保管してある場所を探したら見事にあったとか、
上手い事話に尾びれをつけて騙してくれたなと。
オバカ学生だった自分らは、本気にして大き目の病院に電話で
"死体洗いのバイトをしたいんですが"って聞いちまったからな。
見事なまでに笑い話だよ。そのうち近所のガキにも吹き込もうと思う。

さて、そんな都市伝説をまっさきに思い浮かべてしまう内容が
書き連ねてある本作だが。
前作の奇妙な仕事と同じく、憤り感が半端無い。
特に象徴的だったのは、主人公が軍人の死体を見て
"戦争を起こすのは今度はきみたちだ"
"俺達は評価したり判断したりする資格を持っている"
と語りかけてくるように感じたところ。
この強迫観念的な押し付けがましさというのは、
現代でも糸を引くもので、前作・奇妙な仕事で
女生徒が言った伝統意識や文化に浸かり過ぎた社会と
重なる表現に感じる。
そして、全編に渡り生と死のイメージが散りばめられていたのが
印象的で、死体移しの死体から始まり、中絶の資金を稼ぐために
来た女子学生、全身ギブスの小さな中年患者、生きている人間と
話すのを徒労と感じる主人公、運ばれたばかりの少女の死体、
といった感じに意味深な要素は多く、一つ一つを考察し解釈
するのもこの作品の楽しみの1つだと思う。

ラストはおもいっきり奇妙な仕事と被るが、
印象はまったく変わったものとなってる。
死体と共に長い月日を過ごしてきた教授の憤り感が強い。
by souka_t | 2011-01-08 12:24 | 文学 | Comments(0)
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