カテゴリ:文学( 86 )
石川淳 【普賢】
第4回芥川賞受賞作品。

言葉で飾り立てるとはよく言うが、
息を吐くように放たれる膨大な語彙はとにかく凄い。
明治~昭和戦後の中二病とでもいうべきか、
一挙一動に加えて小難しい事をマシンガンのように並び立てる
この独特な口語体にはただただ圧倒され、そしてその中に熱を
感じる。まるで熱せられて威勢の良い音を上げるヤカンのようだ。

正直なところ、はじめは読みづらいと思った。
古風で難解な表現が出るたびに、読み始めたことを後悔もした。
だが、少し慣れてくるとこの文章の独特なリズムが病みつきになる。
この酸欠になりそうなほど捲くし立てる独特の文体は、
どうやら饒舌体と呼ばれているらしい。
歳月を経て、分かりやすい語呂と軽快さにまとめられて
ライトノベルの文体としても使われている事を考えると非常に趣がある。

普賢という物語に関しては、その独特で回りくどい文体と所々の時系列
の移り変わりなどが忙しく、読みながら内容を追う事に精一杯で、
作品に於けるメッセージ性については残念ながら汲み取る余裕が無かった。
とにかくろくでもない人ばかり登場しては一悶着あったり、
いきなり人が死んだりと、目まぐるしい展開ではあった。

凄い作品であることには違いないが、芥川賞を取るほどの
物語だったかと言われれば首をかしげる。


これを読むと、何か作業をしようとして手が付かない時に
「ああ普賢なり普賢なり」と言いたくなってしまう。
いや、実際ブログを更新しようかしまいかの時に言ってる自分がここにいる。
この【普賢】を浅沼晋太郎か神谷浩史に朗読させたいと思うのは私だけではないはず。
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by souka_t | 2011-01-18 04:12 | 文学 | Comments(0)
鶴田知也 【コシャマイン記】
第3回芥川賞受賞作品。

書き出しの"祖母から聞いた歌だ"って言ってる一節を
どう解釈したものか。
実際にある民話を物語としてまとめたのか、
書き出しも含めてほぼ創作なのか、
それによって読み迎えた結末の感想は異なってくる。

内容は亡国の王子物語を地でいく叙事詩なのだけど、
親を殺され家臣を殺され逃れに逃れて募らせた復讐心が、
ふとした事で緩み、ガッツリやられてしまうという
なんとも読後モヤモヤするお話になっている。

高文明が低文明を侵食していく様が
芥川賞的な社会風刺の織り交ぜ具合なのかなと
納得する一方、やはり結末の意味は考えてしまう。

大業を成すには一時も敵に気を許すなって言ってる
気もするし、大勢に背いた成れの果てなんてこんなもんだ
って言ってる気もする。
せめて戦場で果てて欲しかったが、冒頭の先祖同様に
エゲツない騙まし討ちに合った事に意味があるのだろう。
本作は読後感も含めて異色な芥川賞作品だと感じた。
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by souka_t | 2011-01-14 05:56 | 文学 | Comments(0)
石川達三 【蒼氓】
第1回芥川賞受賞作品。

初代芥川賞作品とはいかほどのものかと読んでみたが。
ド直球の社会風刺作品だった。

戦前の日本のブラジル移民というものは、
さすがに教科書上の数行でしか知らなかったが、
これを読むだけで随分と生々しいものが伝わってくる。
現実にあった汚職事件を劇中話題にしているところ等、
まったくのクッションを置かない表現は、
本当に直球そのものだと思う。

多種多様な事情や境遇を盛り込んでいるため、
登場人物の描写は細かく、読んでいる感覚は
驚くほど現代小説に近くて読みやすかった。
先に読んだ39回芥川賞作品の飼育は、
これに比べると大分読み辛いものがあったが、
あちらは創作性の高い話となっていて、
その時々の芥川賞傾向があると窺えた。


本編の話を彩る移民達には思うところがある。
移民達が同じ境遇の仲間達と励まし合い、
意気投合する様は、自分の高校入学したての頃と被る。
あの当時は底辺校に入っちまったからにはしかたねえ、
同じバカ同士仲良くやろうぜ的に、
たった数日でクラスに溶け込んでしまったものだ。
同じ境遇同士というものは感応し易いものなのだろう。
蒼氓-そうぼう- という作品はその雰囲気を
充分に表現されている。
低俗な群集の中にある暖かみを感じる作品だ。
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by souka_t | 2011-01-11 04:03 | 文学 | Comments(0)
大江健三郎 【死者の奢り】
大江健三郎最初期の短編。
主人公が医学部の水槽に入った死体を新しい水槽に移すバイトをする話。


昔、自分が高校生の頃に聞いたかな。
実際はもっと大昔からなんだろうけど、
都市伝説に"死体洗いのバイト"ってあって、
1体洗うごとに1~2万の報酬が出るが、付いた死臭はなかなか取れない
といった感じに口伝で広まってた。
何が始末が悪いかって、自分の時はその話を担任の教師から
給食中だかホームルームの時間中だかに聞かせられたことだ。
今思えば、小洒落た怪談話の他の何物でもないんだが、
部位ごとにホルマリン漬けにして保管してあるとか、
興味本位に頭だけ保管してある場所を探したら見事にあったとか、
上手い事話に尾びれをつけて騙してくれたなと。
オバカ学生だった自分らは、本気にして大き目の病院に電話で
"死体洗いのバイトをしたいんですが"って聞いちまったからな。
見事なまでに笑い話だよ。そのうち近所のガキにも吹き込もうと思う。

さて、そんな都市伝説をまっさきに思い浮かべてしまう内容が
書き連ねてある本作だが。
前作の奇妙な仕事と同じく、憤り感が半端無い。
特に象徴的だったのは、主人公が軍人の死体を見て
"戦争を起こすのは今度はきみたちだ"
"俺達は評価したり判断したりする資格を持っている"
と語りかけてくるように感じたところ。
この強迫観念的な押し付けがましさというのは、
現代でも糸を引くもので、前作・奇妙な仕事で
女生徒が言った伝統意識や文化に浸かり過ぎた社会と
重なる表現に感じる。
そして、全編に渡り生と死のイメージが散りばめられていたのが
印象的で、死体移しの死体から始まり、中絶の資金を稼ぐために
来た女子学生、全身ギブスの小さな中年患者、生きている人間と
話すのを徒労と感じる主人公、運ばれたばかりの少女の死体、
といった感じに意味深な要素は多く、一つ一つを考察し解釈
するのもこの作品の楽しみの1つだと思う。

ラストはおもいっきり奇妙な仕事と被るが、
印象はまったく変わったものとなってる。
死体と共に長い月日を過ごしてきた教授の憤り感が強い。
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by souka_t | 2011-01-08 12:24 | 文学 | Comments(0)
大江健三郎 【奇妙な仕事】
大江健三郎最初期の短編。
主人公が引き取り手のない犬を殺処分するバイトをする話。

登場人物は4人いて、それぞれが犬殺しの仕事を
通して言動や行動で人となりが表されているんだが、
印象的なのは"犬殺しのプロ"の存在感。

主人公らが柵の中から連れてきた犬をプロが手際よく
棒で叩いて即死させるのを繰り返す。
日常的にまず見ることの無い光景だが、
確実にこういった光景は存在するわけで、
本編中も主人公が見慣れぬその手際を見て
"非難されるべくもない卑怯さ"と評したのは印象深い。

読みながら、ではどう殺したら卑怯ではないのだろうか?
と考えたが、間髪を入れずして犬殺しのプロが
"毒を使うような真似はしたくない"と言う。
犬好きが故に、できる限り真正面から楽に殺してやりたいという
犬殺しのプロなりの想いがそこにある訳だが、
この境地に至った過程も少ない字数からよくよく伝わってくる。

登場人物の一人、女子学生は、
それを伝統意識や文化に浸かりきった産物のようだと評する。
この辺りの言葉も非常に秀逸で、社会にたとえてこんな事を
言い放つ女子学生がいたら本当に衝撃的だ。惚れてしまうかもしれない。
そんなエキゾチックな言動に反して、犬殺しの報酬が入ったら
"火山を見に行く"とものおかしそうに語るところは、
おちゃめを通り越して狂気じみてる。火山は何かの比喩だろうか?

もう一人の登場人物である私大生は
プロのやり方を"もっと上品に殺すべきだ"と非難する。
一理あるが、犬殺しの仕事に来た人にしては覚悟の無い言葉だ。
この三者に加え、ただ成り行きを見守る主人公と
それぞれの考え方の違いは上手く表されてる。

全編に渡り"犬殺しの仕事"という負の性質溢れる雰囲気を
持つ作品だが、登場人物4人それぞれの言葉を拾うと味わい深い。
これに続く作品である「死者の奢り」には
この作品の面影が非常に良く残されている。
個人的には両方合わせて好きな作品だ。
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by souka_t | 2011-01-07 06:12 | 文学 | Comments(0)
大江健三郎 【飼育】
第39回芥川賞受賞作品。


少年だった。
まさしく書かれているものは少年だった。

純白で、綺麗も汚いも何でも吸い取ってしまう
ちり紙のような少年ではなく。
小汚く、同年代に意地を張り、事あるごとに背伸びをしたがる、
泥と土と鼻水にまみれた、これぞまさしく少年って感じの少年。

常々思ってたんだが、ショタコンってのはこういうことよ。
かわいくて、ちっちゃくて、小奇麗でお人形さんのような少年とか、
そんなものを愛してるやつは少年愛を語っちゃいかんよ。
小汚ねえのがガキなのよ。

そんな少年が未知との遭遇を果たして、
ゾクゾクしたりワクワクしたり、最後は大人の階段をちょっと
上がっちゃうぐらいの儀式を通過しちゃう。それが
この飼育って作品よ。物語構造的にも美しいぐらいに完璧じゃないの。

宮崎駿がロリコンなら大江健三郎はショタコンと言っても
過言じゃないだろう。

こりゃ納得の芥川だわー。
この年の審査委員は全員真性のショタコンにちげえねえ。
胸が熱くなるな。
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by souka_t | 2011-01-06 04:25 | 文学 | Comments(0)