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【文学】星を継ぐもの


SFの傑作と名高い"星を継ぐもの"を読了したのでその感想。


正直、後悔した。
こんなもの読むんじゃなかった。

まず、本編はミステリー調に1つの謎を追っていく
形になっているのだが、これが話として全くの破綻が無く
丁寧かつ細かい。過保護なほどに謎の追い方に筋道が立てられて、
それこそなかなか溶けないアイスクリームを舐め回すように、
じっくり、じわじわ、どろりと、味わい深く濃厚なんだ。

その濃厚さっていうのはね、物理学だったり、地質学だったり、
天文学だったり、時には生物学の進化論だったりするんだ。
人類が長く培ってきた知の結晶で科学者達が宇宙の謎に挑む姿は、
感動すら覚える。
そして、仮説に継ぐ仮説で、一枚、また一枚と剥がれて行く謎のベール
を読み進めるのは興奮する。

派手なアクションやマシンの描写は一切無く、
ましてや、物語を彩るはずのキャラクターの造形もべらぼうに浅い。
なのに、ドラマになってるんだ。まぎれも無くサイエンスなドラマだ。
そうか、SFとはこうあって然るべきか!と、納得させられるほどの力強さを
感じずにはいられない。傑作の名に偽りは無かった。

本編クライマックスを飾るダンチェッカーの演説は本当に素晴らしい。
今でこそ人類のおこがましさを鑑みて自虐する作品が多いが、
人類の種としての強さを誇り高く称える、彼のような物言いは私は好きだ。


さて、約20年越しにふしぎの海のナディアの最終回が「星を継ぐもの」
だった訳がよく分かったのだが、劇場版ゼータガンダム3部作の
「星を継ぐもの」は、ちょっと、タイトル付けが浅はかじゃないの?と
思ったね。ナディアの場合は海底2万マイルの皮を被った星を継ぐもの
って言っても良いぐらいマッチしてるのに対して、ゼータは無いわー。

しかしながら今回読んだ"星を継ぐもの"は余りに傑作過ぎた。
なんかまとまったお話でも書こうかな~と思った矢先に
読むものではなかった。こんなものを読まされては、もう何も書けんよ。
見事なまでに生涯で一番面白かったノベルが更新されたよ。
まぢオススメ。
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by souka_t | 2012-06-06 00:11 | 文学 | Comments(0)
玄侑宗久【中陰の花】
第125回芥川賞受賞作品。

2000年の作品なだけあり、インターネットが
作中の小道具として使われるところに時代を感じる。
お話的には仏門にまつわる事が主体で、
成仏などの死観や霊観を取り扱ってはいるが、
全体的に澱んだものは無く、意外と日常的。
何と言ってもお坊さん主観が斬新に書かれていて、
形式的に徐霊などをこなすことへの葛藤は
読んでいて面白味を感じた。ああ坊主も人の子なんだな、と。

霊的なものを理知的に解釈する一節も面白く、
仏教も意外と科学的に解釈できて、その語り口が
坊主らしからぬ柔軟さに満ちているように見えた。
それがリアル僧侶である作者の説なのか、
その筋では通説なのかは分らないが、非常に興味を引く。
この作品が宗教臭くならなかった一因とも言えるだろう。

話の大筋も比較的良かった。
後半に嫁さんの不思議な言動に繋がっていく感じは、
なかなか良い構成だったと思う。

全体的にそつのない作品だったが、
若干奇を衒った職業系に芥川賞は甘過ぎないかという
疑問は残る。 いや、でも、面白かったけどね。
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by souka_t | 2011-12-29 19:09 | 文学 | Comments(0)
堀江敏幸【熊の敷石】
第124回芥川賞受賞作品。

やたら物を食う場面が多く、フランスの名所の
情景と相まって牧歌的。
話の終盤まで「自分は何を読んでるんだろう」と
思うほど取りとめも無い、言ってみれば退屈な話。
リトレの説明にページを費やした先にようやく
話の核心に迫る寓話が挙がり、良い具合に余韻を残して終わった。

何と言うかスマートじゃない話だ。
異文化や偉人を挙げて貧雑に繋げた感がある。
最後に主題が明確になったので、もういちど読み直せば
印象が変わるかもしれないが、初読はヤンとの会話の中での
歪みにピントが合わせられなかった。
全編に渡り"上手い引用だろ?"的なところが小賢しく、
個人的には鼻持ちなら無い作品だった。
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by souka_t | 2011-12-25 11:05 | 文学 | Comments(0)
藤野千夜【夏の約束】
第122回芥川賞受賞作品。

まごう事なきホモ小説。
日常系のホモ作品とでも言うべきか、
まず主人公がホモ。他の登場人物も主人公の相手のホモと
トランスセクシャルで女になった元男、あと女2人と犬一匹。
メインキャストの半数がホモ。
象徴的にホモを扱ってるかと思いきや、
ガチなホモ視点で日常が綴られてる。
文章は柔らかく、読めば「ああ、ホモも割と普通だな」
と思えるほどに妙な親近感を覚えるところが
この作品の最大の魅力なのだろう。
視点がホモの主人公になったり、女の友達になったりと、
若干の異形と普通の切り替わりによって両方が日常に
溶け入る様は面白く、どこかのどかな雰囲気だ。
本物のホモもたぶんこんな感じなのだろうと思わせる
妙なリアリティが良い。ホンモノは見たこと無いけどね。
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by souka_t | 2011-12-23 15:32 | 文学 | Comments(0)
松浦寿輝【花腐し】
第123回芥川賞受賞作品。

登場人物の一人である伊関の、人を食ったような感じで
次第に哲学的になる語り口が面白い。
東京という土地の変化を巨大な亡霊化に例え、
腐り行きながらその土に根ざしている人々を
すでに亡霊となった者達と言い表してしまうところなど
痛快にすら感じる。詰まるところ敗者の弁、負け犬の遠吠え
ではあるのだけど、何かこう綺麗に切り捨てたように
聞こえるのが比喩表現の面白さなんだろうと思う。
ここだけ切り取ると傑作なのだが、
残念な事に本筋の主人公と死に別れた彼女の話が陳腐。
父子ほどに離れた小娘と性交して自分の気持ちに気づかされる
結末など低俗の定番にも程がある。
語り口が面白い俗っぽさがあっただけに、落とし込んだ俗は
その程度かと落胆を禁じえない。
中盤の伊関の語り口は本当に面白かっただけに惜しい一作。
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by souka_t | 2011-12-17 12:13 | 文学 | Comments(0)
玄月【蔭の棲みか】
第122回芥川賞受賞作品。

在日朝鮮人集落のお話。
戦時からいる在日朝鮮人と次第に幅を利かす韓国人労働者、
更に中国人労働者が加わり集落が変わり行く様を上手く描いている。
主人公は戦時からいる朝鮮人の老人で、彼の視点から
語られる集落の推移が面白く、草野球チームの世代交代から
時代の流れを著す手法なども見事だと思う。
砕けて散っていくような妙に清々しいラストも嫌いじゃない、
所々に散見する問題提起や社会風刺も見事なほどに
集落のお話という一本柱に繋がっている。
こういった散漫さの無さが個人的には気に入ったところで、
比較的近年の作品なだけに読み易いところも好印象。
陰鬱でトゲがあり苦虫を噛み締めるような話ではあるが、
作品的に物凄く小奇麗にまとまっていると感じた。
芥川作品の中でも割と良作の部類。
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by souka_t | 2011-12-11 06:01 | 文学 | Comments(0)
宮本輝【螢川】
第78回芥川賞受賞作品。

昭和中期ぐらいの富山を舞台とした話。
中学生の思春期が甘酸っぱく、
それでいて途方も無くノスタルジック。
登場人物が使う富山弁が更なるアクセントを加え、
北陸の実際を知らぬ自分でも北陸人の
純朴さに幻想を抱くくらい心地よいものだった。

主人公の少年はいささか物分りが良すぎる感があるが、
それを差し引いても、本作は見事な少年を書き切ったと言える。
父と子のやりとり、母と子のやりとり、
親戚と子のやりとり、父の前妻と子のやりとり、
親友とのやりとり、初恋相手とのやりとり、
どれも見事な少年だった。

詰まるところ、文学作品とはいかに少年を書けるか
に集約されると自分は思うのだが、本作はその私基準を
満たすに充分であった。なかなか良い作品だと思う。

また、本作では頻繁にホタルの話があがり、
ラストではホタルの群れが大団円を演出するのだが、
自分の家の近くにもホタルの名所があるので
非常に身近なものに感じた。
自然界で発光する生き物というだけで
なんともファンタジックな虫である。
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by souka_t | 2011-12-09 19:38 | 文学 | Comments(0)
高井有一【北の河】
第54回芥川賞受賞作品。

全編に渡る諦めムードは戦時末期を舞台にしている
だけのことはある。
疎開し、父を失い、空襲に合って家財を失い、
そこから母が自殺してしまうという何とも救いの無い話で、
東北などの情景描写は凄く美しいのだが、
内容に関しては全編に渡って首を傾げる。
厳格そうな母があっさり自殺してしまうところなど、
本当に訳が分からない。何か深い意味があるのかと
考察しようにも本当にあっさりしているのでなんとも。

受賞の理由がちょっとわからないが芥川ワースト
というほどでもない。実に微妙な一編。
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by souka_t | 2011-12-03 01:07 | 文学 | Comments(0)
柴田翔【されど、われらが日々ー】
第51回芥川賞受賞作品。

古本屋で偶然手に取った全集を軸に、
2つの遺書と1つの別れ書きを通して展開される
物語や心情の移り変わりはなかなかにして読ませる。

学生運動時代を扱った作品なのだが、
この時代の若者って本当にこんな感じだったの?
実に面倒くさい人間だらけだというのが率直な感想なのだが、
その面倒くさい人間の心情を手紙という形で本当に良く
表されていると思った。
特に秀逸だったのは最後の節子の手紙。
主人公との付き合いも長くなり、ようやくプロポーズされた
というのに突然別れを告げるというマリッジブルー展開。
なんだこの面倒くさい女はっ、と普通は思うだろう。
その面倒くささのロジックがよく手紙の文に表されていて、
実に感心してしまった。本当にこんな考え方をする人が
いるかどうかは知らないが、積み木の例えなどは非常に良く
象徴していたと思う。

面白い作品か?と聞かれれば面白くないよと即答するだろう。
文学性はあるか?と言われれば多分に感じると答えたい。
まあ、納得の芥川ではあるかな。
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by souka_t | 2011-11-25 05:04 | 文学 | Comments(0)
清岡卓行【アカシヤの大連】
第62回芥川賞受賞作品。

戦前に大連で生まれ、日本に渡り大学入学まで暮らし
戦中に大連に戻ってきた話・・・でいいのかな?
結構時系列が飛び飛びで前後関係が希薄かつ、
すぐに深層心理を物に例えて陶酔しちゃう感じの文体なので、
なんとも掴み辛い。我ながらこういうのには慣れてないな。

これって小説なのかなって首を傾げる内容なのだけど、
清岡卓行先生を調べてみると、詩方面の人だったみたいですね。
だとすると少し納得。
これはワタクシ小説な訳で、この陶酔感もモロ自分語り調で、
なんか読んでいて入り込める余地が無いというか、
ベラベラ自分語りされてる感が強いです。

でも、所々大連出身者からの戦後がどう映っていたか、
そういったものが感じ取れて面白くはあるんですが、
全編に渡って断片的なので、読み手を必要以上に
振り回す所はいかがなものかとも思う。
最後におもむろに女性を登場させて、
くっ付けて終わらすという閉め方もどうかと思う。

当時の選評で、石川達三先生の言に全面同意したい。
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by souka_t | 2011-11-19 09:55 | 文学 | Comments(0)