第115回芥川賞受賞作品。
物語の中の非日常的な現象で、
心理的な何かのリアリティを表現するのって、
物凄く文学性を感じる。
このお話もまさにそういう類のもので、話の中で起こる
非日常的な現象は可笑しくも奇妙で、それに込めた意味合いが
モヤモヤしながらも伝わってくる感じが心地よい。
言ってみれば、昔話の"鶴の恩返し"みたいな現象が
唐突として起こるのだが、そのトリガーは蛇を踏む事に始まり、
起こる現象は、蛇が母親を名乗る女性に化けて家に住み着く。
蛇が化けた女は、主人公が帰ってくると食事の支度を整えて家に居る
という、一見便利なメイドさんを得たような展開だが、
その奇妙さはそこだけでは留まらない。
主人公が働く数珠屋さんの主人の家にも蛇の化身がいたり、
お得意様のお寺の住職も蛇の化身を女房にしている。
蛇が人に化けて家に転がり込むのが普通と言わんばかりの
奇妙な世界が広がっていく。
そして蛇は、一定期間住み着くと、取り憑いた者を蛇の世界へと誘う。
主人公にもその誘いが来るのだが、それも良いかもしれないという
思いの半分で頑なに拒否し続ける。
蛇との暮らしの甘美さに惹かれながらも、最後の一線で
蛇自体になろうとはしない。
これが話の筋だが、
やはり蛇の存在とは何だろうかと読み進めながら考えてしまう。
自分で思いついた中で、一番しっくり来たのが"二次元"。
最後まで一線を守る主人公がふつヲタ・ヌルヲタで、
蛇と別れる数珠屋が脱ヲタ、
蛇にぞっこんで結婚までしてしまった住職は
ラブプラスで結婚式を上げるレベルの覚悟が出来てるガチヲタ。
要するに、主人公の蛇に対する扱いこそが上手な二次元との
付き合い方であり折り合いの付け方という説を提唱してみる。
とりあえず、納得の芥川賞だった。
石原都知事がこの作品を酷評していたのは印象深い。