大江健三郎 【奇妙な仕事】
大江健三郎最初期の短編。
主人公が引き取り手のない犬を殺処分するバイトをする話。

登場人物は4人いて、それぞれが犬殺しの仕事を
通して言動や行動で人となりが表されているんだが、
印象的なのは"犬殺しのプロ"の存在感。

主人公らが柵の中から連れてきた犬をプロが手際よく
棒で叩いて即死させるのを繰り返す。
日常的にまず見ることの無い光景だが、
確実にこういった光景は存在するわけで、
本編中も主人公が見慣れぬその手際を見て
"非難されるべくもない卑怯さ"と評したのは印象深い。

読みながら、ではどう殺したら卑怯ではないのだろうか?
と考えたが、間髪を入れずして犬殺しのプロが
"毒を使うような真似はしたくない"と言う。
犬好きが故に、できる限り真正面から楽に殺してやりたいという
犬殺しのプロなりの想いがそこにある訳だが、
この境地に至った過程も少ない字数からよくよく伝わってくる。

登場人物の一人、女子学生は、
それを伝統意識や文化に浸かりきった産物のようだと評する。
この辺りの言葉も非常に秀逸で、社会にたとえてこんな事を
言い放つ女子学生がいたら本当に衝撃的だ。惚れてしまうかもしれない。
そんなエキゾチックな言動に反して、犬殺しの報酬が入ったら
"火山を見に行く"とものおかしそうに語るところは、
おちゃめを通り越して狂気じみてる。火山は何かの比喩だろうか?

もう一人の登場人物である私大生は
プロのやり方を"もっと上品に殺すべきだ"と非難する。
一理あるが、犬殺しの仕事に来た人にしては覚悟の無い言葉だ。
この三者に加え、ただ成り行きを見守る主人公と
それぞれの考え方の違いは上手く表されてる。

全編に渡り"犬殺しの仕事"という負の性質溢れる雰囲気を
持つ作品だが、登場人物4人それぞれの言葉を拾うと味わい深い。
これに続く作品である「死者の奢り」には
この作品の面影が非常に良く残されている。
個人的には両方合わせて好きな作品だ。
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by souka_t | 2011-01-07 06:12 | 文学 | Comments(0)
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